この記事は、ものづくり特化の比較サイトを運営するfabizが企画・編集しています。合理的だが非効率。OWAS法の課題を解決したPosCheck ーーどのようなきっかけでPosCheckの開発に至ったのか教えてください。PosCheck開発のきっかけは、2021年に受けた大手建設機械メーカーからの依頼でした。話を聞くと、同社では製造現場で「OWAS法」と呼ばれる姿勢の負荷を計測・評価する方法を採用していたものの、計測者の目視による評価のばらつきや長時間の計測が困難といった課題に悩まされていると。そこで、「これはなんとかしたい。自動的、かつ長時間の計測が可能なものは作れないだろうか」と相談がありまして。これがPosCheck開発のきっかけですね。もともと私たちは計測に特化したソフトウェア開発を得意としているんです。トンネルの掘削面の岩盤を計測して、体積の変化から湧水を予測するシステムなどを開発したことがあります。今回の依頼に関しても、私たちの強みである、距離計測カメラを使った3次元的な計測技術とAIを組み合わせることで解決できると考えました。ーーOWAS法というのはどのような手法なのでしょうか。OWAS法はフィンランドで開発された手法で、目視によって姿勢の負荷を計測するものです。体を背中、両腕、両足(下肢)の3部分に分け、それぞれの作業姿勢を分類・判定します。作業負荷は1〜4の4段階で評価します。筋骨格系にとって有害な動作ほど数字が大きくなり、1が最も軽い負荷、4が最も重い負荷を表します。ーーすごく合理的ですね。しかし一方で作業者を観察しながら評価を行うのは難しそうにも感じます。そうですね。実際に、OWAS法の運用には課題があります。例えば、OWAS法は目視である以上、厳密な計測は困難です。「いま背中の角度が20度以上で...」と作業中の姿勢の角度を測るのは現実的ではないですよね。そのため人によって判断基準がばらつくこともありますし、視点の角度によっても見え方が変わってしまいます。それから、長時間にわたって連続的に観察し続けるのも難しい。計測の担当者が目を離した隙に、クリティカルな姿勢が見逃されてしまうこともありました。ーーそれがPosCheckなら解決できる、と。はい。PosCheckは一定の時間が来ると自動的に情報を取得するので、継続的な観察ができるんです。また、作業者にストレスを感じさせないのも大きなメリットですね。まず、従来のようなマーカーやセンサーの装着は不要です。それから、作業している最中にずっと見られていると、それを負担に感じる人もいます。その点、カメラなら喋りませんから(笑)。計測されていることを意識しないぶん、心理的な負担が少ない。客観的に判断でき、長時間かつ定量的に計測できるPosCheckは、従来のOWAS法の課題を解決する手法といえます。”人体の骨格を再現する負荷計測”で改善前後の数値変化が明確にーーPosCheckはどのようにOWAS法による測定を行うのか教えてください。PosCheckは、3Dカメラを使って作業中の姿勢を1秒ごとに自動計測しています。撮影したデータはPCに転送・蓄積されるだけでなく、リアルタイムに画面表示して確認することも可能です。最終的には、1〜4の4段階の評価スコアがグラフで表示されるようになっています。高い数値が出ている箇所をクリックすれば、その作業時の具体的な姿勢の画像も確認できるんです。ーーこれまで同様の技術は存在していなかったのでしょうか。“マーカーやセンサー無しで3次元的に人体の骨格を再現し、負荷計測を定量的に行う”技術 はこれまでなかったはずですね。ちょうど先月(※2024年3月28日)、これに関する特許を取得しましたし、特許が取得できたということは、同様のシステムは現時点ではないんだろうと認識しています。補足すると、これまでもカメラを使って姿勢を分析するシステムはありました。ですが、2次元の計測では複雑な姿勢を正確に捉えられないという課題がありました。一方、PosCheckは3次元で人体の骨格を再現する計測を行うことで、人の恣意的な判断が入らず、より正確な姿勢分析が可能になっています。信頼性の高いデータを取得できるのが大きな特徴です。ーー現在目視でOWAS法を行っている企業がPosCheckを導入した場合、どのようなメリットがありますか?まず1点目は、改善前後の数値変化が明確になることですね。例えば3〜4で評価されていた項目がどのくらい減少したか、など定量的な効果を把握できるようになります。それから2点目は、作業工程ごとの負荷の度合いや作業難度が可視化できることです。実際にPosCheckのデータを見たところ、「この工程に負荷が集中していそうだ」「ここの作業現場が一番厳しい」といった具合に、工程間の差異が一目でわかるようになったという声もいただいています。PosCheckを導入することで、数値に基づいて作業改善の効果を検証できるようになり、負荷の高い工程を特定することも可能になるのが大きなメリットといえるでしょう。腰痛を代表とする姿勢の問題だけでなく、安全や人材確保の面からも正確な評価手段が求められているーーここまで”姿勢の負荷”だけにフォーカスしてきましたが、姿勢の負荷自体の問題だけでなく、そこから二次的に引き起こされる問題というものもありますよね。例えば人手不足の問題があります。負荷の大きな作業は対応できる人が少ないですから。ある自動車メーカーでは外国人の派遣社員が7割を占めているそうですが、肉体的に過酷な作業が続く職場環境では、作業員の定着が難しい。それから、若い人たちもそうした厳しい現場を敬遠する傾向にあります。ーー つまり、人材確保が非常に難しくなっているということですね。そうですね。それからちょっと話がそれますが、派遣社員の方が増えると現場での改善提案が進まないという課題もあるようです。派遣の方も「この作業はこうしたら楽になりますよ」とは言いづらいですからね。そのため、現場の課題については管理者が自ら改善に取り組まなければいけないという構造が生まれている。加えて、人の手に頼らざるを得ない作業は、労災リスクも高まるという指摘もありました。自動化が進んでいるとはいえ、結局は人がやらざるをえない工程が多数あるので、単なる腰痛対策だけでなく、安全面の観点からも”正確かつ効率的な評価手段”が求められているということですね。現場の課題に留まらず、より広範囲にわたるニーズを解決したい。ーー実際に使用した感想など、現場の生の声があれば聞かせてほしいです。工程ごとの負荷の高い・低いなど、いろいろな評価ができるという話はよくいただきますね。それから、「同じ作業でも新人とベテランでは身体にかかる負荷が違うことが明確化された」という声もありました。これは実際にデモに伺った先での事例ですが、その現場では「150キロ程度のドラム缶をフォークリフトで運んで、その後パレットから床に手作業で下ろす」という作業の負荷を計測したんです。ベテランの作業員と新人の作業員を交代で観察・計測したところ、ベテランの作業員は姿勢負荷も概ね1と非常に低い値を示していました。一方、新人の作業員は、同じ動作を行う際に姿勢負荷が3〜4と高く、身体への負担が大きいことがわかりました。ーー数値化することで、ベテランと新人の力の入れ方や体の動かし方の違いも見えてきたのですね。そこから研修などにつなげられるというメリットがありそうです。PosCheckによって、ある作業をベテランと新人がどのように行っているかの差異が、はっきりとデータとして現れるわけです。単に経験の差というだけでなく、具体的な身体負荷の差異が数値でわかれば、そこからどのような指導や研修が必要かが見えてきますね。ーー今後、AIや関連技術の進化への対応はどのように考えていますか?PosCheckの活用範囲は現在の重労働現場への適用だけでなく、AIの技術進化に合わせてさらなる展開が期待できると思います。例えば、オフィスワークなど、重労働以外の現場でも活用の可能性があります。長時間の座り作業によるストレスやコリなども、姿勢の視点から評価・改善に結び付けられるでしょうね。それから、人体の構造とその動きをより詳細に、立体的に捉えることで、リハビリや介護、医療の分野にも応用できると考えています。現場の課題解決に留まらず、より広範囲にわたるニーズにも応えていきたいですね。製品について詳しく見たい方はこちら